03


《お前の可愛さは俺だけが知ってりゃ良いんだ》

口角を上げ、何だか機嫌の良い夜にさらりと髪を撫でられ、掠めるように唇を奪われる。

「……っ」

せっかく引いた頬の熱がぶわりとぶり返し、とくんと鼓動が一際大きく跳ねた。

《俺以外の奴に絶対見せるなよ》

…何のことか分からない。
けど、それなら…。

「夜も…僕以外の人には見せないでね」

恥ずかしくて俯いてしまいそうになる顔を上げて、昼も夜を見つめて言い返す。
すると、夜は一瞬虚を突かれた様な顔をしてからゆるゆると口許を綻ばせ、

《あぁ…》

愛しさと嬉しさを滲ませた子供っぽい笑みを浮かべた。

「―っ」

初めて見るその表情に目を奪われる。とくとくと鼓動が速さを増し、体中に痺れるような熱が広がる。その熱さに目眩を感じて夜の着物をきゅっと握った。

(…この笑顔、誰にも見せたくない。渡したく…ない)

じわりと生まれる強い想い。まるでそんな心を読んだかの様に紡がれる言葉。

《俺の全てはお前のもんだ》

…ふるりと心が震えた。

抱き締められた腕に力がこもり、軽く顎に指が掛けられる。

《昼…》

すぅと甘さを含んで向けられた眼差しに名を呼ばれ、心ごと身を絡めとられる。
徐々に近付く距離に逆らうことなくそっと瞼を下ろした。

「よる……」

唇に触れる熱、着物越しに感じるぬくもり。顎に掛かる指先、全てが…愛しい。

想いの深さの分だけ深まる口付けに、夜と昼の境界は曖昧になり…やがて一つに交わり溶けていった―…。



end




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